「35歳の教科書」私もこうありたいと思う生き方を教えてくれる

35才からの教科書

 

35歳の教科書―今から始める戦略的人生計画

35歳の教科書―今から始める戦略的人生計画

 

 

・あなたは会社の囚人になりますか?
それとも自分の人生の主人公になりますか?
・「みんな一緒」から「それぞれ一人一人」
 の時代に変わった
この印象深いメッセージを作者は作中で何度も読者に伝えます。

猛烈にサラリーマンとして働いたこと
病気をきっかけに働き方生き方を変えたこと
初の民間校長として教育改革を進めたこと
作者の経験を元に伝えたいメッセージに肉付けしていく一冊です。
巷によくある自己啓発本は作者の経験に裏付けされたメッセージではなく見聞きした言葉の寄せ集めであることが多々あります。
その点、作者の藤原さんはリクルートという大企業を飛び出しフェローという働き方をしたり民間校長として活躍後大阪橋下知事の要請を受けて日本の教育改革に乗り出したりと自身の主張を自身の人生で体現されています。

2005年に出版された本ですが2018年に読んでも時代遅れを感じません。
むしろ今でも作者の主張に納得感を感じるが故に作者の先見の明に頭が下がります。
「みんな一緒」から「それぞれ一人一人」
の時代に言う作者の主張は2018年現在でも現在進行形の時代の変化だと思います。
特に野球からサッカーのようにルールが変わったという表現は腹に落ちました。
野球というのは時間制限がなく(いくらでも残業や休日出勤ができて)与えられたポジションで守る(会社や上司の指示に従えば良い)攻守は順番でやってくる感じる(過去の慣例に従えば業績が上がる)
一方でサッカーは時間制限がある(ブラック企業等で誰も働こうとはしない)、監督は基本のポジションを決めるだけで選手は臨機応変にポジションを変える(上司の指示だけでは成果は上がらない、プレイヤー一人一人が考え行動しないといけない)、ゴールにボールを入れるという単純なルールだが作戦は多様(手段に絶対な答えはない)。

野球のような決まりきった枠組みの中で答えを探していくことを「正解主義」、
サッカーのようにその時々で改善を進めることを「修正主義」と定義して今の時代、いかに修正主義が必要かを説いています。
これまで主流だったPDCAの問題解決はまさに正解主義と言えます。
P(計画)をじっくり行い間違いのないD(実行)
を行います。
変化の激しい現在に計画をじっくり行う暇はあるのでしょうか?
計画を行っている内に競合他社がどんどん新製品を販売してしまいます。
私の会社でもプロジェクトは停止しているのに関連する業務を依然として行う人や組織があります。
プロジェクトが立ち上がってゆっくり計画を立てるからやっと実行する頃にはプロジェクトが終わっているという笑い話みたいなことを多くの人がやっています。
PDCAではなくてDADADAの法則を作者は勧めています。
実行と改善を高速で回す。
間違いがあるかもしれないがまずは実行するという修正主義からくる考え方です。
DADADAと3回回すことに共感しました。
人は誰でもどんなことでも3回くらい同じことをするとコツを掴みます。
コツを掴むということは、どうすれば上手くいくかが分かってくるということです。
どうすれば上手くいくかを考えることこそPDCAのPなのです。
DADADAと3回実行と改善を繰り返すと自然とPを行うようになるのです。
しかもコツを掴んだPは、何も知らないPよりも圧倒的に精度が高いです。

比較的古い体質の会社に勤めている私にとって野球からサッカーというルールの変化は実感しやすい表現でした。
役割分担された組織の中で各部署やチームが
自分の組織の利益だけを考えて仕事をする。
そこに会社全体の利益やお客様の笑顔は全くない。そのために仕事の幅も広がらずに考え方もスキルも成長しない。それでも上司に評価され出世していく。そんな野球のルールで仕事をしていることにふと気付きました。

それぞれ一人一人の生き方をするためには
会社以外の組織に所属するのが有効です。
今までは会社だけにどっぷりはまれば社会人人生も退職後も安泰だった。
すでに会社は一生を捧げるには心許ない存在になってしまった。
実際に私自身自分の上司を見て、プライベートも全て捧げて同期を蹴落としてまで会社の原理に従って生きてまでなりたいと思う上司等一人もいない。
くたびれた顔をした上司への憧れ等微塵も感じません。
それでも日々仕事をしていくと、自分自身が少しずつ憧れもしない上司に近づいていっている恐怖を感じます。

私は会社の中に何人もいるクローン人間ではなく会社とプライベート両方で必要十分な充実を感じるユニークな人間になりたいと思う。

そのような感覚を日々感じている私には背中を押してくれるぴったりの一冊であった。
「35才の教科書」の名の通り会社、社会に入りたての新人には合わないと思う。
良くも悪くも会社や社会の面白い所、面白くない所を一通り経験した35才以上の方なら読んで損はないと思います。

それぞれ一人一人の生き方は孤独や勇気が必要です。だからこそ人は成長する。会社が作り出すレールの中では予想の範囲内でしか成長できない。
ユニークな人になるにはユニークな環境に身を置くことが一番だと感じます。
会社に全てを捧げずに地域社会等会社とは異なり多様な価値観を持つ人の集まりに所属することを作者の勧めます。
会社とは違い背景も価値観も異なる人との交流をすることで緊張感ある新鮮なコミュニケーションを体験、実感することができる。
こういうとプライベートの充実を過剰に求める草食系のように感じられる方もいるかもしれません。
その認識は全く逆です。
多様な価値観の人と交わりを持つからこそ誰も思い付かない働き方ができると感じました。
作者は橋下知事の要請を受けて大阪教育局の改革を無償で引き受けます。
これだけだと自己犠牲の美談でしかないのですが、その裏には作者の狙いがあります。
教育関係者誰もが持っている「大阪だけは変わらない」という認識を逆手に取ったのです。
逆に言えば大阪を変えればその波及効果で日本全体を変えられるという作戦があったのです。
作者がただの校長ならこういう作戦を実行するに至らないと思う。
校長をしながら、全国の学校を見学したり、世の中科という特殊な授業で世間の人(時にはホームレスとも)と互いに学ぶ機会を作ったりとコミュニティの輪を広げ続けたからこその作戦だと思います。

作者の経験を並べただけでなくこの本の結末も納得感がありました。
何かを成し遂げるにはレバレッジを意識することが重要。
一番のレバレッジは人と人との関係。
それを実行されている作者だからこその結末だと思います。